大切な財産を次世代に円満に引き継ぎたい、子供たちにできるだけ相続で面倒をかけさせたくない。そのようなお考えで、元気なうちから相続対策に取り組む方々が増えてきています。しかし、相続対策と言っても何から始めればよいのでしょうか?一口に、相続対策といっても、遺言書の作成や、相続財産の洗い出し、相続税のシミュレーションなど様々なものがあります。そこで、本稿では、一般的な相続対策としてどのような切り口で、どのような対策をしていくべきなのか、相続対策の全体像をご説明していきたいと思います。
相続対策の正しい検討順序
相続対策の中には、様々な種類のものがありますが、重要なのは、正しい順序で検討していくことです。正しい順序とは、下記の通りです。
- STEP1:親族間の争いを避けるための対策(「争族」対策)
- STEP2:相続財産の把握と必要資金の準備
- STEP3:相続税を引き下げる資産の有効活用
相続で一番避けなければならないことは、遺族同士が対立関係に陥り、遺産分割協議がまとまらないことです。遺産分割協議が決まらないと、遺産を有効活用することも、相続税を引き下げるための特例を活用することもできなくなります。そして、その次にどのような相続財産があるのか、相続財産を洗い出して、相続に必要な資金をきちんと見積ることです。最後に、資産の活用方法を見直すことで、相続税を引き下げられないか検討します。
時々、相続税の引き下げを優先するあまり、無計画にアパート経営に踏み出したり、養子縁組をしたりしている事例に遭遇します。優先順位を考慮しない相続対策は、遺族に不満を残したり、本来追う必要のないリスクを負わせたりするケースもあります。
まずは、相続対策は正しい順序で行う必要があるという点をきちんと理解してから、相続対策に向き合っていくことが重要です。
各対策の具体的な内容
「争族」対策
相続対策として、まず実施しないといけないのが、相続において遺族が争わないための準備です。「家族仲がいいから、うちに限って相続で揉めることはない」と考えて、何も準備しないケースも見受けられますが、ご両親のうちどちらかが健在の場合には、大きなもめ事がありませんが、その後の二次相続で兄弟間の対立になるケースも見られます。
具体的に、気を付けておかないといけないケースとしては、以下のような場合です。
- 自宅以外にめぼし資産がない
- 特定の親族が介護の負担を担っている
- 特定の親族だけが生前贈与を受けている
- 婚外子や前妻の子供がいる
- 子どもがいない
- 認知症や精神疾患の相続人がいる
それでは、上記のようなケースにおいて、具体的にどのような対策を実施しておけばよいのでしょうか?
相続人の明確化
「争族」対策の最初にやらないといけないのは、誰が相続人になるのか明確にしておくことです。特に再婚している場合や子供がいない場合、未婚の方の場合などには、何もしない場合に誰が相続人になるのか明確にしておき、例えば、お子様がいない場合には、配偶者の方にどうやって財産を残すのかなどの問題をはっきりさせておくことが重要です。
遺言書の作成
争族回避の基本は遺言書を作成することです。遺言書があれば、相続で遺産の分割に関して揉めたとして、遺産の帰属については、遺言書の記載内容が優先されることになります。 もっとも、遺言書が存在しても、遺族の間でその内容について不満があると、対立関係が発生することがあります。そのため、次に記載するエンディングノートや遺言書の付言事項として、家族への想い感謝の気持ち、遺産分割に対する考えなどを残しておくと、家族の納得感も高まると思います。
遺言書の作成には、①公正証書遺言、②自筆証書遺言、③秘密証書遺言の3種類がありますが、公証人に内容のチェックを受けてもらいながら行う公正証書遺言が最も確実で、一番利用されています。
エンディングノートの作成
最近では、終活ブームもあり、「エンディングノート」を作成するケースも出てきました。エンディングノートは、自分の死後の葬式や遺産の分配などについて、自分の考えを記載しておくために準備するものです。
遺言書のように法的な拘束力はありませんが、故人の気持ちであったり、考えであったりを自由にまとめておけるという意味において、非常に有効なツールと考えています。特に、上記で記載した公正証書遺言は、作成に費用がかかり、証人などにも立ち会ってもらう必要がありますが、エンディングノートは自分の自由な時間に記載ができ、また、書き直しをもいつでも可能です。
そのため、法的な有効力を持たせたい遺産の分配については、公正証書遺言を利用して、故人の想いや考えを記載するのにはエンディングノートを利用するといった使い分けが有効と考えます。
生命保険の活用検討
争族対策としては、保険の活用も非常に有効な手段です。特に、相続財産の大半が不動産のように分割できない場合などの場合には、不動産と現金とを分けてそれぞれの相続人に不満が残らないよう準備することがあります。
また、保険は遺留分減殺請求に係る代償分割目的で利用されることもあります。
例えば、子供のいない家庭などでは、自分の配偶者と兄弟が法定相続人となって遺産分割協議をする可能性もあります。
その場合に、遺言書などで全財産を配偶者に相続させる旨を記載していても、兄弟にも遺留分と呼ばれる一定割合の相続財産の取り分が発生しますので、遺留分相当額の支払いを要求されてくる可能性もゼロではありません。
そこで、そのような請求があった場合に、現金で遺留分相当額を支払えるようにあらかじめ保険金を契約しておくことも、実務においてはよく利用されます。
相続財産の把握と必要資金の準備(相続シミュレーション)
相続対策においては、上記で記載したとおり、まずは争族回避を軸に対策を検討していきますが、同時に相続財産の評価額をきちんと把握して、相続税として支払わないといけない資金を準備することも非常に重要です。
特に、不動産や非上場株式のようにすぐに換金できない資産が財産の大半を占めるときには、実際に相続によって、どの程度の相続税が発生し、その相続税が手持ち資金で支払えるか否かのシミュレーションを実施しておくことが重要となります。
仮に、相続税を支払う手持ち資金がない場合には、資金の準備をしておくことも求められます。納税資金対策としては、以下のようなものがあげられます。
資産の売却
相続シミュレーションを実施した結果、納税資金が全然準備できていないことがわかれば、資産の売却も検討しなければなりません。特に不動産の場合、売却代金と保有することによる収益性とを比較したうえで、判断しなければなりません。いざ売却するとなった場合も、相続発生後のバタバタの中で売却を進めようとすると、時間的な余裕をもって取り組むことができず、申告期限に間に合わなかったり、不本意な金額で売却を進めないといけなくなる可能性もあります。
もっとも、不動産を売却する場合には、譲渡益がある場合には、当該譲渡益に対して所得税がかかります。そして、相続した財産を申告期限から3年以内に売却した場合には、相続税の一部を譲渡益から控除することができる取得費加算の特例もありますので、こうしたシミュレーションはきちんとした専門家に相談しながら進めるのが望ましいです。
保険金の活用
納税資金の準備方法としては、保険金の活用も考えられます。相続発生時の相続税額を試算したうえで、それに見合う保険金額の保険に加入することで、相続税の納税資金を準備するものです。
終身保険の有期払いであれば、確実に死亡保険金を納税資金として準備することができます。この場合は、保険料の支払いを相続税の分割前払いのようにとらえていただくと良いかもしれません。
金融機関からの借入
特に個人で不動産を所有している地主の方などは、金融機関から融資を受けて納税資金を準備することも対策としては考えられます。この場合、一般的には、不動産管理会社を設立し、当該会社に対して、融資をしてもらったうえで、当該収益不動産を不動産管理会社に売却することで、納税資金を準備します。
この方法は、実質的に不動産を担保とした借入金を起こすことに近いですが、収益不動産の収益に基づいて、借入金の返済計画を立てていかないといけないので、きちんとした収益管理が必要になります。
会社オーナーの場合の対策
会社オーナーの方で、個人での納税資金の準備は足りないが、会社側には資金がある場合には、自社株式の買取などを検討していきます。
但し、自社株式の買取はみなし配当として、所得税がかかるほか、いくらで売却するかなどの検討が必要になってきます。
また、会社経営をリタイアし、退職金として、会社から資金を引出すなどの対策なども検討していくことになります。
節税対策
これまで見てきた争族対策や納税資金対策などをきちんと検討しつつ、無理のない範囲で資産の活用方法を見直すことで相続税を引き下げられないのか検討をしていきます。
例えば、遊休土地があれば、砂利を敷いて駐車場に活用できないか検討したり、会社の経費として損金算入できる保険の活用などを検討していきます。
また、会社の組織形態や配当政策を見直すことでも、会社の株式の評価を下げることも可能ですが、本来の会社の事業ときちんと整合するように検討していかなければならず、相続対策のために事業経営がおかしくなるようなことがあってはなりません。 あくまで、節税対策としての相続対策は資産の有効活用の範囲内で、様々な問題やリスクが生じないようコントロールしながら実施していくことが重要です。
まとめ
本稿では、相続対策としてどのような切り口で、どのような点を留意しながら検討していくべきなのか、全体像を確認していきました。重要なことは、正しい順序で相続対策を行うことです。順序を間違え、実際の相続時に問題が起こることがないように、専門家にきちんと確認しながら検討を進めていくことをお薦めします。

